【導出】等距離変換とLorentz変換

ユークリッド空間での等距離変換が回転と反転で表されることはよく知られています.
同じように,ミンコフスキー空間での等距離変換(Lorentz変換)がどのような形で表されるのか計算してみましょう.


【目次】

等距離変換@ユークリッド空間/Euclidean space

一般論

基本的な性質:

  • $x\cdot y=\dfrac{1}{4}\left(\left| x+y\right|^2 -\left| x-y\right|^2\right)$
    • 或いは,$x\cdot y=\dfrac{1}{2}\left(\left| x+y\right|^2 -\left| x \right|^2 - \left| y\right|^2\right)$
  • 任意の$x,y$に対し$x\cdot A_1y=x\cdot A_2y$が成立 $\Leftrightarrow A_1=A_2$
    • $(A)_{i,j}=e_i \cdot A e_j$が成り立つことからわかります.

を用いれば,

\begin{align} \left| Ax\right|=\left| x\right| &\Leftrightarrow Ax\cdot Ay=x\cdot y\\ &\Leftrightarrow {}^t\!A A=I \end{align}

が成り立つことがわかります.つまり,$A$が

  • 距離(ノルム)を保つこと
  • 内積を保つこと
  • 直交すること

は同値であることがわかります.*1

2次元の場合の具体的な表式

距離を保つ任意の変換が,「回転」と「反転」で表せることを示しましょう.

行列$A$は単位ベクトル$e_1, e_2$を用いて$A=(Ae_1,Ae_2)$と表せます.
このとき,${}^t\!A A=I$は$Ae_i\cdot Ae_j=\delta_{i,j}$と同値です($\delta_{i,j}$はクロネッカーのデルタ).
特に,$|Ae_1|=1$ですから
\begin{align}
Ae_1=
\left(
\begin{array}{c}
\cos\theta\\
\sin\theta
\end{array}
\right)
\end{align}
と表すことができます.これに直行する単位ベクトルは,$Ae_1$を「時計回り」或いは「反時計回り」に$\pi/2$回転させたベクトルなので,
\begin{align}
Ae_2=
\begin{cases}
&\,
\left(
\begin{array}{cc}
0&1\\
-1&0
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{c}
\cos\theta\\
\sin\theta
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{c}
\sin\theta\\
-\cos\theta
\end{array}
\right)
\\
%
&\,
\left(
\begin{array}{cc}
0&-1\\
1&0
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{c}
\cos\theta\\
\sin\theta
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{c}
-\sin\theta\\
\cos\theta
\end{array}
\right)
\end{cases}
\end{align}
であることがわかります.

以上より,2次元の場合の距離を保つ変換は
\begin{align}
A=(Ae_1,Ae_2)=
\begin{cases}
&\,\color{red}{
\left(
\begin{array}{cc}
\cos\theta&\sin\theta\\
\sin\theta&-\cos\theta
\end{array}
\right)}
\\
%
&\,
\left(
\begin{array}{cc}
\cos\theta&-\sin\theta\\
\sin\theta&\cos\theta
\end{array}
\right)
=\color{red}{
\left(
\begin{array}{cc}
\cos\theta&\sin\theta\\
\sin\theta&-\cos\theta
\end{array}
\right)}\color{blue}{
\left(
\begin{array}{cc}
1&0\\
0&-1
\end{array}
\right) }
\end{cases}
\end{align}
であることが示されました.

  • 前者は回転
  • 後者は,反転+回転

となっていることに注意しましょう.

等距離変換@ミンコフスキー空間/Minkowski space

ミンコフスキー空間での等距離変換は,Lorentz変換と呼ばれます.
4次元ミンコフスキー空間の内積は,
\begin{align}
\eta=
\left(
\begin{array}{cccc}
1&&&\\
&-1&&\\
&&-1&\\
&&&-1
\end{array}
\right)
\end{align}
を用いて
\begin{align}
x\cdot y={}^t\!x\eta y
\end{align}
と表されます.

$x\cdot y=y\cdot x$に注意すれば,ユークリッド空間での議論と同様にして

\begin{align} \left| Ax\right|=\left| x\right| &\Leftrightarrow Ax\cdot Ay=x\cdot y\\ &\Leftrightarrow {}^t\!A\eta A=I \end{align}

が示されます.

2次元の場合の具体的な表式

時間1次元と空間1次元の場合に,具体的な表式を求めてみましょう.
(時間と空間の次元を分けて,$1+1$次元と表すこともあります)
\begin{align}
Ae_1=
\left(
\begin{array}{c}
x^0\\
x^1
\end{array}
\right)
\end{align}
と表すとき,$\left| Ae_1 \right|=1$は$x_0^2-x_1^2=1$を意味します.
従って,
\begin{align}
Ae_1=
\left(
\begin{array}{c}
\cosh\phi \\
\sinh\phi
\end{array}
\right)
\end{align}
と表すことができます.

次に,$Ae_1$と直行する単位ベクトルを求めます.
\begin{align}
x_i=
\left(
\begin{array}{c}
|x_i|\cos\theta_i \\
|x_i|\sin\theta_i
\end{array}
\right)
\qquad(i=1,2)
\end{align}
と極座標表示でベクトルを表すとき,内積は
\begin{align}
x_1\cdot x_2= |x_1||x_2|\left( \cos\theta_1\cos\theta_2-\sin\theta_1\sin\theta_2 \right)= |x_1||x_2|\cos(\theta_1+\theta_2)
\end{align}
と表せます.従って
\begin{align}
x_1\cdot x_2= 0
\Leftrightarrow
\theta_1+\theta_2=\frac{\pi}{2}+m\pi\qquad(m\in\mathbb{Z})
\end{align}
が直行する条件となります.

以上より,$Ae_2$は$Ae_1$を反転・$\pm\pi/2$回転させたベクトルとなるので,
\begin{align}
Ae_2=
\begin{cases}
&\,
\left(
\begin{array}{cc}
0&1\\
1&0
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{c}
\cosh\phi\\
\sinh\phi
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{c}
\sinh\phi\\
\cosh\phi
\end{array}
\right)
\\
%
&\,
\left(
\begin{array}{cc}
0&-1\\
-1&0
\end{array}
\right)
\left(
\begin{array}{c}
\cosh\phi\\
\sinh\phi
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{c}
-\sinh\phi\\
-\cosh\phi
\end{array}
\right)
\end{cases}
\end{align}

よって,2次元の場合の距離を保つ変換は
\begin{align}
A=(Ae_1,Ae_2)=
\begin{cases}
&\,\color{red}{
\left(
\begin{array}{cc}
\cosh\phi&\sinh\phi\\
\sinh\phi&\cosh\phi
\end{array}
\right) }
\\
%
&\,
\left(
\begin{array}{cc}
\cosh\phi&-\sinh\phi\\
\sinh\phi&-\cosh\phi
\end{array}
\right)
=\color{red}{
\left(
\begin{array}{cc}
\cosh\phi&\sinh\phi\\
\sinh\phi&\cosh\phi
\end{array}
\right)}\color{blue}{
\left(
\begin{array}{cc}
1&0\\
0&-1
\end{array}
\right) }
\end{cases}
\end{align}
であることがわかりました.

参考文献

ヒルベルト空間と線型作用素 (数理情報科学シリーズ)
場の古典論―電気力学,特殊および一般相対性理論 (ランダウ=リフシッツ理論物理学教程)



*1:複素ヒルベルト空間への一般化も容易です.例えば,ヒルベルト空間と線型作用素 (数理情報科学シリーズ) の命題2.1.16を参照して下さい.