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あまり知られていないこと

【解説】テンソルと行列が混同される理由

テンソルと行列の違いについて悩んだ事はありませんか?テンソルを学ぶ人の多くは

  • テンソルを導入する際に,『「行列とテンソル」は別物です』と注意があった.
  • にも関わらず,「2階のテンソルの成分を並べて行列の形で表わしている」のを見たことがある.

という矛盾に出会ったことがあるのでは無いでしょうか.


実は,『「行列の成分」は「テンソルの成分」にもなる』という性質があります.これは,「テンソルの商法則」として知られる性質の特別な場合に当たります.そして,この性質のために「行列とテンソル」が混同されているのです.以下で詳しく見てみましょう.

テンソルと行列の関係

応力テンソル

今回の議論に,応力テンソルに関する知識は不要です.しかし「テンソルの成分が行列の形で表される例」として,簡単に触れておきます.

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法線ベクトルを$\boldsymbol{n}$とする,ある面を考えます.この面にかかる応力(単位面積あたりの力)を$\boldsymbol{p}_n$で表します.このとき,応力$\boldsymbol{p}_n$は「応力テンソル」$\mathsf{P}$を用いて
\begin{align}
\boldsymbol{p}_n
=\mathsf{P}\boldsymbol{n}
\end{align}
と表されます(この式の導出については,末尾の参考文献「流体力学」の$\S 42$を参照して下さい).このように,「応力テンソル」と言いつつも,行列の形で表されていますね.

ここで,$\mathsf{P}$の$(i,j)$成分を$p_{ij}$と表しましょう.このとき,$p_{ij}$は「上図の$i$面における$j$方向の応力成分」を表しています.


(参考)
各軸のモーメントの釣り合いを考えることにより,$\mathsf{P}$が対象テンソルであること($p_{ij}=p_{ji}$となること)が示されます.従って,行列$(p_{ij})$は適当な基底を取ることにより対角化が可能です.

証明したい性質

我々が示したいことは,以下のように表すことができます:

行列$M$の成分$m^i_{\; j}$は1階反変1階共変テンソルの成分になる.

証明:応力テンソルの変換規則

基底ベクトルが
\begin{align}
e^\prime_i=\sum_{j=1}^n \alpha^j_{\; i}e_j
\end{align}
と変換される座標変換を考えます.以下では,$\displaystyle\sum_{j=1}^n$は省略し,$e^\prime_i=\alpha^j_{\; i}e_j$と表します(Einsteinの規約).

また,

  • 基底$e_1,...,e_n$の双対基底を$f^1,...,f^n$で表す
  • 行列$\left(\alpha^i_{\; j}\right)$の逆行列を$\left(\beta^i_{\; j}\right)$で表す

こととします.


このとき,双対基底の変換法則を用いれば,行列の成分は
\begin{align}
m^i_{\; j}
&=f^iMe_j
=\left(\alpha^i_{\; k}f^{\prime k}\right) M \left(\beta^l_{\; j}e^\prime_l\right)\\
&=\alpha^i_{\; k}\beta^l_{\; j}\underset{=m^{\prime k}_{\; l}}{\underline{\left(f^{\prime k} M e^\prime_l\right)}}
\end{align}
と変換されることがわかります.これは,1階反変1階共変テンソルの成分の変換則に他なりません.//


※ 証明では,次の記事の内容を使いました:

参考文献/参考記事

ジョルダン標準形・テンソル代数 (岩波基礎数学選書)

「テンソルの商法則」の一般的な表式を学びたい方は,以下の書籍を参考にして下さい.
この記事で紹介した「行列の成分が1階反変1階共変テンソルになる」という事実も,何度も例として扱われています.

ジョルダン標準形・テンソル代数 (岩波基礎数学選書)

ジョルダン標準形・テンソル代数 (岩波基礎数学選書)

流体力学 (物理テキストシリーズ 9)

流体力学における応力は,例えば以下の文献に記述があります.

流体力学 (物理テキストシリーズ 9)

流体力学 (物理テキストシリーズ 9)

Wikipedia:応力

応力 - Wikipedia
Wikipediaの表式は,この記事と記法が異なります.
例えば,応力ベクトル/テンソルを
\begin{align}
\boldsymbol{t}=\sigma^{T}\boldsymbol{n}
\end{align}
と表しています.参照する際には,適宜読み替えて下さい.