ドル・コスト平均法のリターン

POINT

  • ドル・コスト平均法のリターンを計算する.
  • ドル・コスト平均法では,取得単価が平均化されることがわかる.
  • ドル・コスト平均法は,毎回一定数買い付ける方法よりもハイリターンであることが示される.

最近,積立投資 (確定拠出年金や積立NISA) において,「ドル・コスト平均法」で取得単価が下げられるメリットについて触れられることが多いですね.これは,一体どういうことなのでしょうか?

実際に確かめるために,「ドル・コスト平均法のリターン」を計算してみましょう.四則演算ができればわかる計算です!

ドル・コスト平均法

ドル・コスト平均法とは?

ドル・コスト平均法の効果があるとされる,積立投資とは,
株式や投資信託などの金融商品を,定期的に毎回同じ金額だけ購入する投資方法
のことです.

よく,投信や金の投資に関する記事で見かけますね.このように投資することにより,金融商品の購入価格が平均化されることが知られています.これを,ドル・コスト平均法と言います.

リターン

ここではまず,英語版Wikipediaにあるリターンを表す式
ドル・コスト平均法のリターン
\begin{aligned}
r=\frac{p_\mathrm{F}}{\tilde{p}_\mathrm{P}}-1
\end{aligned}
を導出しましょう.

以下では,金融商品を「株式」と呼ぶことにします.


まず,以下のように記号を決めましょう:

  • $p_n$:$n$ステップ目($n$回目の購入時点)の株価
  • 毎回$m$ (定額)の金額を投資する


このとき,$n$ステップ目において,

  • 保有株式数:
    \begin{aligned}
    S_n
    &=m/p_n+S_{n-1} \\
    &=m(1/p_1+\cdots +1/p_n)
    \end{aligned}
  • 利益(株式の価値−投資金額):
    \begin{aligned}
    P_n
    &=p_n\cdot S_n-mn \\
    &=mn\left(p_n\cdot \frac{1/p_1+\cdots +1/p_n}{n}-1\right) \\
    &=mn\left(\frac{p_\mathrm{n}}{\tilde{p}_\mathrm{P}}-1\right)
    \end{aligned}
となります.ただし,$p_1,...,p_n$の調和平均を$\tilde{p}_\mathrm{P}$で表しました.即ち,
\begin{aligned}
\tilde{p}_\mathrm{P}:=\frac{n}{1/p_1+\cdots +1/p_n}
\end{aligned}
です.


ここで,$mn$がトータルの投資金額であることに注意すれば,リターン$r$は

\begin{aligned}
r=\frac{P_n}{mn}=\frac{p_n}{\tilde{p}_\mathrm{P}}-1
\end{aligned}
となります.//

この式から,株価の購入価格が平均化されていることがわかりますね.また,後で見るように,『毎回「一定数」だけ金融商品を購入する場合』よりも高いリターンとなっています.


注意

ドル・コスト平均法によって購入するということは,高値で買うこともあるわけです.もし,安値で仕込めるなら,その方がリターンは高いことは理解しておきましょう.

※ 「高値」というのは,後からしかわからないわけですが...しかし,「明らかに高値である」というのがわかれば,買い控えるべきです.

【比較】金融商品を「毎回一定数」買い付ける場合

今度は,毎回「一定数」の金融商品を購入する投資手法を考え,ドル・コスト平均法のリターンと比較します.ドル・コスト平均法と比較して,どちらがリターンが高くなるのでしょうか?

リターン

$n$ステップ目の株価を$p_n$とし,毎回$S$だけの株式を購入する場合を考えます.

このとき,$n$ステップ目において

  • 保有株式数:$S_n=nS$
  • 投資金額:
    \begin{aligned}
    m_n
    &=p_nS+m_{n-1} \\
    &=(p_1+\cdots+p_n)S
    \end{aligned}
  • 利益(株式の価値−投資金額):
    \begin{aligned}
    P_n
    &=p_n\cdot S_n-m_n \\
    &=m_n\left(p_n\cdot \frac{n}{p_1+\cdots +p_n}-1\right) \\
    &=m_n\left(\frac{p_\mathrm{n}}{\bar{p}_\mathrm{P}}-1\right).
    \end{aligned}
となります.ただし,$p_1,...,p_n$の算術平均を$\bar{p}_\mathrm{P}$としました.即ち,
\begin{aligned}
\bar{p}_\mathrm{P}:=\frac{p_1+\cdots +p_n}{n}
\end{aligned}
です.

ここで,$m_n$はトータルの投資金額であることに注意すれば,リターン$r$は

リターン
\begin{aligned}
r=\frac{P_n}{m_n}=\frac{p_n}{\bar{p}_\mathrm{P}}-1
\end{aligned}
となります.したがって,この方法でも取得単価は平均化されます.

結論:ドル・コスト平均法との比較

調和平均$\leq$算術平均であることに注意すれば,ドル・コスト平均法の方がハイリターンであることがわかります