Notes_JP

【解説】テンソルと行列が混同される理由


  • 「行列の成分」が「2階のテンソル(1階反変1階共変テンソル)の成分」になることが混乱の原因.
  • この性質は「テンソルの商法則」の特別な場合に相当する.



テンソルと行列の違いについて悩んだ事はありませんか?テンソルを学ぶ人の多くは

  • テンソルを導入する際に,『「行列とテンソル」は別物です』と注意があった.
  • にも関わらず,「2階のテンソルの成分を並べて行列の形で表わしている」のを見たことがある.

という矛盾に出会ったことがあるのでは無いでしょうか.


実は,以下の意味においては「行列」と「テンソル」は同じものとみなせるのです:

  1. 「行列の成分」は「1階反変1階共変テンソルの成分」にもなる.
    • 「テンソルの商法則」として一般化できる.
  2. 「線形空間$V$から$V$への線形写像全体」と「1階反変1階共変テンソル全体」は,同じ線形空間とみなせる.
    • (正確には,$\mathrm{Hom\,}(V,V)$と$V\otimes V^*$は同型であることが示せる)
    • 一般化できる:テンソル空間は,多重線形形式から成る線形空間と同型対応がつく.

テンソルと行列の関係

応力テンソル

今回の議論に,応力テンソルに関する知識は不要です.しかし「テンソルの成分が行列の形で表される例」として,簡単に触れておきます.


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(図はTikZで作成:【備忘録】TikZ実例集 - Notes_JP)

法線ベクトルを$\boldsymbol{n}$とする,ある面を考えます.この面にかかる応力(単位面積あたりの力)を$\boldsymbol{p}_n$で表します.このとき,応力$\boldsymbol{p}_n$は「応力テンソル」$\mathsf{P}$を用いて
\begin{align}
\boldsymbol{p}_n
=\mathsf{P}\boldsymbol{n}
\end{align}
と表されます(この式の導出については,末尾の参考文献「流体力学」の$\S 42$を参照して下さい).このように,「応力テンソル」と言いつつも,行列の形で表されていますね.

ここで,$\mathsf{P}$の$(i,j)$成分を$p_{ij}$と表しましょう.このとき,$p_{ij}$は「上図の$i$軸に垂直な面における$j$方向の応力成分」を表しています.


(参考)
各軸のモーメントの釣り合いを考えることにより,$\mathsf{P}$が対象テンソルであること($p_{ij}=p_{ji}$となること)が示されます.従って,行列$(p_{ij})$は適当な基底を取ることにより対角化が可能です.

行列の成分の変換則

我々が示したいことは,以下のように表すことができます:

行列$M$の成分$m^i_{\; j}$は1階反変1階共変テンソルの成分になる.

(参考)
ここで,行列$M$の成分$m^i_{\; j}$は$Me_j=m^i_{\; j}e_i$で定められます($e_1,...,e_n$は基底ベクトル).この式を元に証明すると,$M$を行列ではなく「線形変換」とした場合にも,(基底ベクトル$e_1,...,e_n$に関する行列表示に対して)証明がそのまま成り立ちます.証明の中では,この式から得られる$m^i_{\; j}=f^iMe_j$という関係式を用いています.量子力学でブラケット記法に馴染みがある方は,$m^i_{\; j}=\langle e_i|M|e_j\rangle$と表すとわかりやすいでしょう.


証明
基底ベクトルが
\begin{align}
e^\prime_i=\sum_{j=1}^n \alpha^j_{\; i}e_j
\end{align}
と変換される座標変換を考えます.以下では,$\displaystyle\sum_{j=1}^n$は省略し,$e^\prime_i=\alpha^j_{\; i}e_j$と表します(Einsteinの規約).

また,

  • 基底$e_1,...,e_n$の双対基底を$f^1,...,f^n$で表す
  • 行列$\left(\alpha^i_{\; j}\right)$の逆行列を$\left(\beta^i_{\; j}\right)$で表す

こととします.

このとき,双対基底の変換法則は
\begin{align}
f^{\prime i}=\beta^i_{\; j}f^j
\end{align}
と表されます(導出:【解説】双対空間とブラベクトル,反変・共変ベクトルの座標変換 - Notes_JP).

従って,座標変換により行列$M$の成分は
\begin{align}
m^i_{\; j}
&=f^iMe_j
=\left(\alpha^i_{\; k}f^{\prime k}\right) M \left(\beta^l_{\; j}e^\prime_l\right)\\
&=\alpha^i_{\; k}\beta^l_{\; j}\underset{\displaystyle=m^{\prime k}_{\; l}}{\underline{\left(f^{\prime k} M e^\prime_l\right)}}
\end{align}
と変換することがわかります.これは,1階反変1階共変テンソルの成分の変換則に他なりません(導出:【まとめ】テンソルの変換則〜導出と変換則一覧 - Notes_JP).//

参考文献/参考記事

  • ジョルダン標準形・テンソル代数 (岩波基礎数学選書)
    「テンソルの商法則」の一般的な表式を学びたい方は,以下の書籍を参考にして下さい.
    この記事で紹介した「行列の成分が1階反変1階共変テンソルになる」という事実も,何度も例として扱われています.
    ジョルダン標準形・テンソル代数 (岩波基礎数学選書)

    ジョルダン標準形・テンソル代数 (岩波基礎数学選書)

  • 流体力学 (物理テキストシリーズ 9)
    流体力学における応力は,例えば以下の文献に記述があります.
    流体力学 (物理テキストシリーズ 9)

    流体力学 (物理テキストシリーズ 9)

  • Wikipedia:応力
    応力 - Wikipedia
    Wikipediaの表式は,この記事と記法が異なります.
    例えば,応力ベクトル/テンソルを
    \begin{align}
    \boldsymbol{t}=\sigma^{T}\boldsymbol{n}
    \end{align}
    と表しています.参照する際には,適宜読み替えて下さい.

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